結論
英単語は文脈からではなく、単語帳で覚えよう!
文脈があると覚えやすい?
例えば、フランス革命について論じている文章があったとする。その中で用いられている新出語彙が、文脈の中で有機的に連関しているのは確かである。
革命(Revolution)
政府(Government)
絶対主義(Absolutism)
民主主義(Democracy)など…関連する語句が登場するであろう。
入試で扱われる文章がフランス革命であることが《確定している》なら、この覚え方でも構わないのかもしれない。しかしながら、実際に出題される英文は、文脈が異なるのであるから、お気に入りの文章の通りに単語が出てくるわけではない。仮に同じ単語が出現しても、意味を思い出しにくいという欠点がある。
文脈から覚えるのは効率が悪い
本来、語彙は文脈から覚えるのが自然であるのかもしれない。それこそがネイティヴの英語なのかもしれない。しかし、我々はあくまで外国語として学ぶわけであるから、膨大な時間と費用をかけるわけにはいかない。日本の大学に入学するために、海外で生活するというのは、あまりに非効率的である。
文脈から覚えるというのは、時間というよりも、期間を要するのである。
まず第一に、習った語句の復習をするのに時間がかかってしまう。10個の単語をテストするのに、もう一度英文を読むのでは、効率が悪い。
第二に、一度出会った単語に、別の文章で再度出会うことは意外と少ない。同様に、実際の本番で目にする単語は、覚えた単語のごく一部である。
そもそも英単語学習は、頻度から言えば、受験においては非効率なのである。しかし、絶対に避けられない学習であるから、効率を考えるべきなのである。
具体的な練習法
目標:英語を見て日本語を即答できるようにする
これが差し当たっての目標となるから、テスト効果を最大限に活用して練習しよう。
テスト効果とは、テストの形式をそのまま普段の学習に取り入れることで、最大限の成果を発揮するという説である。考えてみれば当たり前のことかもしれない。
入試英語の大部分は、英語を読んで理解することであるから、英語を見て日本語を意味を言えるようにすることが最重要課題となるだろう。
それゆえ、基本動作は、英語を見て日本語を言えるかセルフテストする、ということになる(だらだらと読んでも覚えられない)。例えば、次のような練習メニューはいかがだろうか。
練習メニュー(例)
① 1単語につき30秒間の音読練習/機を見計らって、空を見上げながら音読する
② ①を10単語行なう(5分)
③ 英語を見て日本語を言えるかテストする(1分)/1単語につき3秒、その場で再テスト
④ 間違えた単語には、✓や「正」などの印をつける(苦手単語の炙り出し)
⑤ 次の10単語に進む
→6分で10単語;1時間頑張れば、100単語練習できる
暗記が得意な人はもっと時間を絞り込んでもよいだろう。
認知負荷に注意する
覚える対象となる英語であるが、長くしすぎないようしておきたい。
苦手な人は、ターゲットのような1語1義形式で、
得意な人は、DUOのような例文形式で覚えるとよいだろう。
人間が一度に習得できることには限りがあるから、欲張って認知的負荷を上げてしまわないように注意しておきたい。重量挙げの練習と同じと思ってもらえればよい。
それゆえ、語源の知識を活用して覚えるというのは、基礎的な単語をある程度覚えてしまってからの方がよいだろう。システム英単語であれば、1700語くらいは、頑張って暗記したい。また語源知識が通用するのは、意味が一義的な難解な単語に多いことも付言しておきたい。例えば、decideの語源を知った所で活用のしようがない。
※多義語に関しては、語源を活用して意味を整理することは有用である。
復習はいつすべきなのか?
これに関しては、定説がないようである。条件を揃えて実験するのは難しいだろう。
知られているのは、分散学習と遅延効果である。
分散学習とは、簡単に言うと、60分集中して学習するよりも、20分を3回に分けたほうがよいという考え方である。
例えば、朝・昼・晩と時間帯を決めて、復習しながら進めていくのがよいだろうし、なかなかまとまった時間を取れない人にもおすすめできる。
スケジュール(例)
朝:1〜30
昼:2分で朝のセルフテスト+31〜60
夜:2分で朝昼のセルフテスト+61〜90
遅延効果については、或る事柄を短期間覚えていたいのであれば短い間隔で、長期間覚えていたいのであれば長い間隔で復習するのがよいと言われている。
前者の場合は、一夜漬けを肯定することになるが、それが通用するのは低レベルな定期試験であるから、無視していただきたい。
さて、長い間隔とはどれほどの期間なのだろうか。
覚えていたい期間の10〜30%の間隔で復習するのが効果的であるという説があるようだが、指標になるようで指標にならない(一生涯覚えていたければどうすればよいのだろう)。
復習の間隔の指標―《望ましい困難さ》とは?
やはり指標になるのは自分の記憶力である。ここでは《望ましい困難さ》という概念を紹介したい。
《望ましい困難さ》とは、なかなか思い出せずに正解できない辛さを伴うが、長期的な記憶にとっては有効である困難さのことである。裏を返せば、思い出すのが難しくなる程度に間隔を空けて練習すればよいということである。
こればっかりは個人差があるから、テストの日程も睨みつつ、実践しながら妥当な期間を探ってみてほしい。
文脈で記憶を強化する
先ほど、文脈による暗記は効率が悪いと述べたが、全く効果がないわけではない。
単語帳による暗記のことを意図的学習と呼ぶが、それと対比して文脈による単語学習は付随的学習と呼ばれる。まとまった文章を読むというのは、読解の練習であったり、文法の練習であったり、語法の練習であったりする、そうした練習に付随する形で英単語学習が存在するということである。
さて、この付随的学習は《記憶を強化する》と言われている。つまり、既に覚えた単語を定着させるのに役立つのである。ある程度単語を覚えてきたら、長文などでも学習を進めていくと効果を実感できるだろう。
おすすめの単語帳
ベタではあるが、定番のシス単である。
フレーズも短すぎず、長すぎずといった形で負荷を最小限にしつつ、長文での適用を視野に入れることができるという点でおすすめであるし、頻度順であるので、これまで学習を怠ってきた人には救世主ともなり得る。
次におすすめなのは竹岡広信のLEAPである。
シス単同様、長すぎない例文とフレーズが付されている。用法に応じて複数のフレーズがあることも魅力である。
強調しておきたいのは、Active VocabularyとPassive Vocabularyとに分けられている点である。前者は英作文などで使いこなすべき語彙という意味であり、後者は受け取って意味が分かれば良い語彙という意味である。
高度な英作文の対策は、表現をいくつ知っているかで勝負が決まる。早くから日→英の練習に取り組みたい方におすすめである。
語源の説明も負担にならない程度に抑えられている。
参考文献
当記事の執筆に当たり、以上の2冊を参照したが、どちらもおすすめで、一家に一冊あってよい。
特に『英単語学習の科学』は、具体的な心理学実験を丁寧に紹介してくれているため、どうしてその方法が効果的なのかを深く納得しながら、読み進めることができる。中高生にも十分手の届く内容であるから、是非手にとってみてほしい。
YouTubeでも同様の趣旨のことを解説しています。よろしければどうぞ。