哲学と精読

共通テストは辛い

同志社志望の高3生(17)

源氏物語を読む

源氏物語を読むということですが、ここ最近は文法的分析が中心になっています。注目せざるを得ないほど複雑なので、いい演習になると思ってるところです。

演習において重要なことは、答えを言い当てることではなく、仮説と検証のプロセスを繰り返して合理的に回答案を出すことです。このあたりの発想がまだ本人に乏しいので、その意味でも指導が必要です。

さて、課題となったのは、

母君泣く泣く奏してまかでさせたてまつりたまふ

という一節で桐壺更衣の病が重くなったために宮中を離れなければならないという場面で、テーマは主体客体の判定と敬語法の整理です。

「母君泣く泣く奏し」まではほぼ適切に理解して説明できていました。次に問題となるのが「て」でありますが、結論的には接続助詞となりますが、助動詞「つ」の連用形と把握してしまいました。これは直後に「まかで」と動詞が続いているので順序としておかしいということで、仮説を修正できました。

さて、「まかづ」ですが、先週はその基礎知識をすぐに言えていましたが、今回はやけに詰まってしまっていました。詰まったときは資料を参照してよいと伝えていますので、本人は参照するのですが、その参照の仕方が「クローズド」な点が問題であると思いました。それは所作から明らかで、手元を隠しながら、解説書を参照していました。そして、そこに書かれてある結論だけを読み上げたのです。これでは議論になりません。そこに仮説と検証の思考がありません。

まず、参照資料を明らかにするよう指示しました。勿論、私が配布した資料なので、何であるのかは知っています。重要なのは、私が参照元を知りたいということではなく、本人が参照元をはっきり自覚して表明する態度が必要だということです。私に答えを言って◯をもらうことが目的になっては、学習はお終いです。

その解説書には結論的な答えのみが書かれていることを指摘して、その答えを目指して基礎から説き起こすように指示していきました。

その後の議論は、複線的なので説明しませんが、重要なのは「迷う」ということは複数の可能性があるということであり、その可能性を留保しつつ、最も合理的なものを検討するということです。勿論、最も合理的と思われたものが、検討していくと間違っていることに気づく場合もあるでしょう。そのとき、振り出しに戻る根気も大切です。そこは根性の見せ所だと思います。

 

ポイントだけまとめると

母君泣く泣く奏してまかでさせたてまつりたまふ

①接続助詞「て」→「まかでさせ…」の主語も母君である可能性が高い

②「まかづ」は謙譲の本動詞で「貴人の所から退出する」→この文脈からして「桐壺更衣が帝のもとから退出する」可能性が高い

→①・②より、「させ」は尊敬ではなく、使役の可能性が高い。尊敬だと「母君が退出する」という意味になってしまう。

③「たてまつり」は謙譲、「たまふ」は尊敬のいずれも補助動詞として用いられている

→尊敬は行為の主体、すなわち母君に敬意を表す

→謙譲は行為の客体、すなわち「まかでさす」という使役の対象(桐壺更衣)に敬意を表す

→「まかづ」だけを取り出すとそれは謙譲語として、帝に敬意を表している