哲学と精読

共通テストは辛い

同志社志望の高2生(8)

指定校推薦か一般入試か…

同志社志望の高2生、現在在籍している高校で指定校推薦を十分に狙える位置にいます。しかし、同志社は理系の枠のみ…関西大学なら枠は十分に用意されているとのことです。指定校推薦で進学できれば、その後は試験のプレッシャーもなく、安泰に過ごすことができますから、悩ましいところです。

指導者としては、ある程度プレッシャーのある状況のほうが、学力がつくと思う面もありますが、意見の分かれるところでしょうか。

現代文の指導

3/18(月)の指導、引き続き『アメリカニズムの終焉』第3章を読んでいます。今回は、ほとんど思想史的な視点からみた近代史といった感じになりましたが、デモクラシーやナショナリズムといった基本的な評論文キーワードをおさらいしつつ、精読していきました。

今回は、19世紀および20世紀の国際秩序の維持の仕方の相違について学びました。20世紀デモクラシーの台頭とそれに由来する《民主的外交》が、19世紀の貴族社会による秘密外交に取って代わり、これが国際秩序の大きな転換点となりました。勿論、秘密外交はダメで、民主主義が素晴らしいなどという絵空事ではありません。

19世紀ヨーロッパにおいては、デモクラシーの要求を良い意味で無視することのできた各国の貴族たち職業外交官は、同族意識に基づいた貴族社会を形成していたため、暗黙の価値観やルールを共有していました。そうした規範意識のおかげで、外交官の振る舞いは、過激になりすぎない節度あるものとなったと考えられています(モーゲンソーやギゾーの指摘が紹介されています)。貴族社会という超国家的な社会が、国家間の利害対立を調停する機能を担っていたという指摘は興味深いです。

さて、20世紀になり、デモクラシーが台頭しますが、これはナショナリズムと無関係ではありませんでした。それゆえ、民主的に選出された外交官は、ナショナル・インタレストを最大化するような仕方で振る舞うようになり、いきおい、国家間の衝突が激化します。国際連盟もなければ、貴族社会もない。国家を超えた存在として、国家間の利害を調停する機構が存在していないからです。

ここに新たな調停機関、さらには、その調停機関を支える道徳的理念が必要になってきます。19世紀においては、貴族社会の暗黙の道徳的観念(節度ある外交)に依拠していたわけですが、デモクラシーによりこれが失われたからです。

ウィルソンの第一次大戦への参戦理由「世界のデモクラシーを守るために」という宣言は、国際連盟構想とともに、このような文脈で世界史的意義を有するのです。

19世紀から20世紀にかけて、軍事力や経済力のうえで、アメリカが覇権をイギリスから勝ち取りつつあったことは間違いないのですが、こうしたソフト・パワーにおける優位性も覇権獲得に関係していることは、前回のカーによる指摘でも確認しました。

さて、そのアメリカがデモクラシーを世界に広めていった、あるいは、世界各国がデモクラシーを受容した要因は、タウンミーティングのデモクラシーと対比される、モノのデモクラシーでした。

アメリカは、フォーディズムの発想の元、19世紀イギリス型の搾取経済から、大量生産・大量消費による好景気循環によって、経済を拡張し、労働者を消費者に変貌させていきました。同じ商品を買い求める消費者層の形成により、同質的な国民意識が偽装されるわけです。

同じ商品は、同じ生活水準を保証してくれます。そしてこの大量生産による規格化された商品は、普遍的に流通する可能性をもっており、商品とともに、それを買い求める消費者によるモノのデモクラシー、かっこつきのデモクラシーが世界に波及することができたのです。